平野理恵さん(仮名:25歳 ヘルパー2級)が入職して2年3か月が経過したころ、私のもとに退職届をもってやってきた。もう一度、バスガイドに戻りたいのだという。
介護福祉士の資格取得のために頑張っていただけに、何故今になって退職したいと言い出したのか疑問を感じた。
高校卒業後、バスガイドをしていた理恵さんは、ヘルパーの資格を取得後に入職してきた。
元気で明るい理恵さんは、特別養護老人ホームの所属となり、Aチームに配属が決まった。
社会経験も5年あり、バスガイドという職業柄、高齢者とのコミュニケーションも上手で、理恵さんがAグループに入ったことでチーム全体が活気づいた。
各チームには、主任ケアワーカーとメンバーが9人とチーム看護師がいた。
理恵さんが入職すると、チームから指導者が選任され、朝日さん(仮名:介護福祉士 5年目 25歳)が担当となった。
新入職員指導計画書に基づいて、朝日さんが相談者となり、悩みを聞くなどして半年かけて夜勤が出来るようになるまで教育していくのだ。
理恵さんは、朝日とは同い年ということもあって、不安や疑問も聞いてくれるなど、二人の間には信頼関係が出来ていった、勤務以外でも仲が良かったという。
チーム看護師との関係も良く、医学的な知識の習得も早かったという。
理恵さんが3年目に入った年、Aチームのリーダーが結婚退職で県外へ転居したため、朝日さんは人事異動でCチームのリーダーに異動となり、Aチームは、新しいリーダー(池田さん:仮名:男性 30歳)が選任され、新年度がスタートしていた。
理恵さんは、池田さんが苦手だった。過去に、夜勤を一緒にした時、セクシャルハラスメントまがいの声かけをされてからは、仕事だからと言い聞かせ我慢して出勤していた。数か月経とうとしていたころ、全身に蕁麻疹が出来て、頭痛、食欲不振などの症状が出現し仕事にも身が入らなくなっていた。
理恵さんは、施設長に相談したが、「池田さんは下心はないから大丈夫だ。」と言って、理恵さんの声に耳を傾けなかったという。
理恵さんは、異動をすることを条件に慰留するよう何度も話し合いましたが、施設長への不信感は払拭できず、一か月後に退職していきました。
バスガイドには戻らず、他県の福祉施設で介護職員として働いています。
介護労働安定センターによると、離職原因で多いのが、「職場の人間関係」23.9%でトップ、以下、「結婚、出産、妊娠、育児のため」が20.5%、「職場の理念や運営の在り方に不満があった」が、18.6%というデーターがあります。
施設責任者の言葉や振る舞いが影響していることも少なくありません。
精一杯頑張っているのにねぎらいの言葉がないなど、責任者からみれば、こんなこと?って思うようなことが職員の不満につながっているのです。いくら利用者に優しく、尊厳を大切になどとの理念を掲げていても、施設長や管理者が勤務環境に無関心である以上、その理念も嘘に感じられてしまいます。
また、部下が困っている時に対応しない上司など、誰もついていきません。現場の中間管理職に任せることなく、職員一人一人に気を配ることが重要だと思います。
職場のチームワークが崩壊すると、チームワークが維持できなくなるだけでなく、個々のモチベーションが下がり、サービスの質も低下します。
介護職員の離職率を低下させるためには、施設の経営者や運営者達が今一度、介護現場のより良い働き方について考えると良いと思います。