「国民皆保険制度」は、半世紀以上前の1961年に始まりました。
国民皆保険制度が実現する前は、医療を受けられずに亡くなる人も大勢いました。
1956年の『厚生白書』には「1,000万人近くの低所得者層が復興の背後に取り残されている」と記されています。この頃までは、国民のおよそ3分の1にあたる約3,000万人が公的医療保険に未加入であり、「国民皆保険制度」の達成は日本の社会保障の大きな課題となっていました。
その後、1958年に新しい「国民健康保険法」が制定され、1961年に現在の「国民皆保険制度」が完成することになったのです。
1922年 (旧)健康保険法
1938年 (旧)国民健康保険法
1958年 国民健康保険法の制定
1961年 国民皆保険の実現
1973年 70歳以上の医療費が無料に(自己負担ゼロ)
1984年 職域保険(被用者保険)本人の自己負担1割
1997年 同自己負担2割
2003年 同自己負担3割
2008年 後期高齢者医療制度始まる
2015年 医療保険制度改革法が成立
(国民健康保険への財政支援の拡充、入院時の食事代の段階的引き上げ、紹介状なしの大病院受診時の定額負担の導入などが盛り込まれた)
そんな国民皆保険制度ですが、少子高齢化が進む日本でもあらゆる問題点が浮き彫りになってきました。
国民医療費は2015年度の42.3兆円から2025年度には1.4倍の57.8兆円に増加。
このうち、65歳以上の高齢者の医療費は、23.5兆円から34.7兆円に1.5倍に増加。
医療費全体に占める割合も55%から60%に高まり、特に後期高齢者医療費は15.2兆円から25.4兆円に1.7倍に急増すると予測されています。
そこで、75歳以上の後期高齢者が医療機関で支払う窓口負担を巡り、政府・与党は10日、負担割合を1割から2割に引き上げる時期を2022年10月から23年3月の間とすることを決めました。対象範囲は「単身世帯で年収200万円以上」で、厚生労働省の試算では約370万人となる見込みで、実施から3年間は外来診療での支払額の増加分を1か月あたり3,000円に抑える緩和措置をとるとのことです。
今、全国的にコロナ感染の影響もあり、病院や診療所での感染を恐れた患者が受診控えがあります。
全国に約10万カ所ある診療所は再編・淘汰が始まる可能性が高いと言われていますが、自己負担の少ない高齢者の受診や全額公費負担である子供の無駄な受診が多くあったのかと思います。
コロナ患者を診る病院への手厚い支援は必要だと思いますが、診療所などの損失を診療報酬や税金で一律に穴埋めするような救済策は「過剰な医療」を復活させるだけになりかねないのではないでしょうか。
とある診療所のある待合室。
多くの高齢者が集まっています。
診療所の医師が、ここは老人のコミュニュティの場所だと言います。
自らの病気を自慢げに話したり、気の毒がったり、息子や孫の事を自慢したりと話は絶えません。
どこそこの誰々が病院に入院したとか、亡くなったなどの話をすると、一日もあれば地域全体に広まります。
そして、高齢者はそれぞれに自分を重ね合わせて、「死」というものと対峙します。
認知症にはなりたくないだの・・・寝たきりにはなりたくないだの・・・ぽっくり逝きたいだの・・・話は尽きません。
看護師時代、急性期病棟の勤務が多かった私ですが、人事異動で療養型の病棟に異動になりました。
ここで初めて社会的入院をしている老人に出会う事になりました。(現在は、療養型病床になります)
経口摂取が出来ない高齢者等への栄養補給の手段として、経鼻栄養から胃瘻増設へと医療は変化してきた頃です。
胃瘻を増設すれば、経鼻栄養のように定期的に管の交換を行わなくても良くなり、在宅での介護負担も楽になるとのことで、胃瘻増設の手術が多くされるようになりました。
ただし、胃瘻を増設した患者さんはどうなるかというと、定期的におむつ交換をして、清拭し、2時間おきに体位変換をし、3度の食事を暖めて管で流す。
看護師は機械的に看護を提供するだけ・・・。
患者さんは、一晩中、いえ、1日中・・・365日同じ事を繰り返されながら、ベッドの上で過ごすのです。
いわゆるベッドの上が生活の場になります。
ある日の夜勤中に、胃瘻を増設して、意思疎通の出来ない92歳の患者さんに話しかけました。
「今のあなたは幸せですか?ここでの生活はあなたが望んでいた老後ですか?”・・・」と。
父は、末期の癌でしたが、ぎりぎりまで住み慣れた自宅で過ごし、最後はホスピスで緩和治療を受けながら87歳で亡くなりました。
いわゆる尊厳死です。
尊厳死とは、不治あるいは末期の病になっている人間が、自らの意志で延命治療などを止めて安らかに、人間としての尊厳を保ち、自然の経過のまま死に至ることです。
回復の見込みがないと説明を受けた時、父には事実を伝え、母と姉、私が話し合い、積極的な医療行為を行わないと決めました。
ただし、延命治療を断るとしても、安らかな最期を迎えるための緩和医療は行うことにしました。
日本の医療現場では、患者が尊厳死を望んでいても延命治療を行うケースが見られます。
救急で搬送された高齢者が挿管し、人工呼吸器を装着する場合もあります。
高齢者であっても一度人工呼吸器を装置を装着したら外すことは出来ません。
尊厳死の法制化を目指す動きもありますが、日本では現在実質的な審議には至っていないのが現状です。
2050年には3人に1人が65歳以上の高齢者になります。
医療費の在り方も含めて、医療をどこまで施すかを検討する時期に来ているのではないでしょうか。