高津義彦(仮名:75歳)さんは、元銀行マン。
高津さんは28歳で結婚するも女性問題で離婚し、子供はなし。その後は独身を通したという。
銀行マンとしての高津さんは、真面目で若くして支店長に抜擢されたという。
高津さんは、60歳で定年退職し、その後、嘱託職員として5年間別会社に勤務した後は、ひとり暮らしをしていたという。
高津さんの弟である孝彦(仮名)の元へ警察から電話が入ったのは、クリスマスも終わった年の暮れ。
「高津義彦さんの弟さんですか?お兄さんの件で、一度署までおいで頂きたい」と・・・。
弟である孝彦さんは68歳。
会社を定年退職し、退職金で二世帯住宅を建て、娘家族との生活をスタートさせたばかりであった。
兄の義彦さんの女癖が悪いこともあり、二人きりの兄弟であったが、歳も離れていたためか行き来することはあまりなく、ここ10年くらいは連絡を取り合うこともなかったと言います。
義彦さんの離婚後、何度か家を訪ねたこともあったが、多くの女性が出入りしており、行くのを止めたのだという。
高津義彦さんは、結婚を機にマイホームを購入し、離婚後も同じ家に住み続けていました。
真面目な勤務態度とは裏腹に仕事が終わると夜の街に出かけるという生活を続けていました。
スナックやバーに通い詰めます。
「給料の殆どを女に貢いだのではないかと思います・・・。」と弟である孝彦さんは言います。
年金生活となった義彦さんですが、家のローンは終わっており、ひとりで生活するには十分な額の年金を受給していて、悠々自適の生活近所でもを送っていました。
ところが、退職後も女遊びは止まることなく退職金を女性につぎ込みます。
お気に入りはフィリピンパブだったと言います。
退職して10年が経過する頃、高津さんの家には外国人らしい女性が多く出入りするようになり、ここ数年は複数の女性が一緒に暮らしていたようです。
近所から苦情が出始めたのはその頃です。
高津義彦さんは、下着姿で出歩く、所かまわず放尿する、ゴミ出しが出来ない・・・ついにはスーパーで万引きをして捕まります。
警察に出向いた孝彦さんは、兄の姿に愕然とします。
「兄さん!」と声を掛けるも、弟である孝彦さんが認識出来ません。
義彦さんを警察から引き取り、義彦さんの家に行きました。
義彦さんの家で待っていたのは何通もの督促状でした。
自宅を担保にお金を借り入れ、年金を担保にサラ金から多額の借金をしていることが判明しました。
兄弟が合わない間に義彦さんの認知症はかなり進行していました。
認知症になったことを良いことに、複数のフィリピン人が、義彦さんの家の権利書や年金証書を持ち出し、実印を使って多額の借金をしたのだと言います。
義彦さんの家に住み込んでいたフィリピン人は、既に帰国しており、日本にはいませんでした。
超高齢化社会の今、家族による経済的虐待の件数が増えており、重大な社会問題となりつつあります。
認知症の方も増えてきており、認知症高齢者が経済的虐待や消費トラブルの被害に遭うケースが増えていると言われています。
今回の高津さんのようなケースや、親族に年金を搾取されたり、悪質業者の標的になったりするなど、生活が困窮するほどの深刻なケースもあります。
また、高齢者の通帳やカードを、本人に代わって家族が管理してお金を出し入れするということは多くの家庭で行われていますが、預金者である本人の意思や利益にに反して現預金や年金を使い込んだり、勝手に管理すると、それは高齢者に対する「経済的虐待」に該当する行為です。
高齢者への経済的虐待を防ぐためには、成年後見制度を活用することをはじめ、ケアマネジャーや民生委員など「地域」とのコミュニケーションの中で異変に気づいてもらうなど、日頃からの対策が重要です。
自治体、地域社会による経済的虐待防止への取り組みは、現在のところ地域包括支援センターや市役所等の相談窓口での対応が中心ですが、高齢者と多く接するMSW(医療ソーシャルワーカー)や民生委員などが、普段から地域高齢者に目を向け支援することで経済的虐待等を防止できるのではないでしょうか。
高津さんは、その後、自宅を処分し、特別養護老人ホームへ入所しました。
サラ金からの借金は、施設利用料を支払った残りで支払うことになりました。
高津さんの場合は、フィリピン女性が同居しており介入が難しかったケースですが、地域社会のつながりが希薄になってきたのかと残念に思います。