老人ホームに看護師は必要なのか
今回は介護の世界に飛び込んで初めて経験した特別養護老人ホーム(以下「特別養護老人ホーム」)での勤務のことを綴ります。
そこでの私の辞令は「主任ケアワーカー兼看護師」。
私の他に、若い看護師2名と介護職員が30名ほどで入所者80名のお世話をします。
新設の特別養護老人ホームで、当時の施設長の考え方なのか、介護職員はすべて新卒の福祉大学卒、福祉専門学校を卒業した介護福祉士未経験者。
社会経験者も無く、介護実習で学んだだけの手探り状態での介護提供。
介護職員は実習で学んだであろう定時のおむつ交換・・・オムツ台車を走らせ、廊下の端から端へと進めていく。
食事も全員食堂には集めるものの、一人の職員が4~5人を受け持ち食事介助を行う。まるで、燕に餌を与えているような様は異様でした。
入浴介助、口腔ケア等々・・・画一的に介護を進めていく学生の延長線のような仕事ぶりに、看護学生の方がまだ使えるかな・・・と、若い介護職員のプロ意識に欠ける態度と価値観の違いに日々葛藤する毎日・・・。
転職したことを後悔しつつも若い介護職員が90歳を過ぎるようなお年寄りを可愛いなぁ~と言いながら、まるで自分のばあちゃんに接するような優しく接する姿に新鮮さも覚えました。
それでもあの老人病院のお年寄りよりは幸せな様子を見て、1年間は頑張ってみようかなぁ~・・・と特別養護老人ホームでの看護師としての仕事をスタートさせました。
ある日、ある介護福祉士の介護職員が、私にこういいました。
「えっちゃん!ここは病院じゃない!生活の場!ここの利用者にとっては、ここが家なんですよ!病院のような管理は必要ない!残された人生をその人らしく暮らす援助をすればいいんです!」
最初は何を言っているのか理解できなかったんですね。
恥ずかしい話ですが、“ノーマライゼーション”という言葉すら分かりませんでしたから・・・。でも、彼女のこの言葉で、高齢者の生活の理解や看護・介護の視点が変わりました。そして、社会福祉へどっぷり浸かることになったのです。
ノーマライゼーションとは、障害者も、健常者と同様の生活が出来る様に支援するべき、という考え方である。また、そこから発展して、障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿であるとする考え方としても使われることがある。またそれに向けた運動や施策なども含まれる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ただし、私も折れない部分もありました。
高齢者の場合、入浴前に血圧測定や検温を行いますが、正常値くらいは学んで欲しいと言いました。正常が分からないと異常の発見は出来ないからと・・・。
体温、脈拍、血圧等の正常値だけでなく、血圧とは何か?水分補給はなぜ必要か?必要な水分量は?一日の尿量は?etc・・・。高齢者に多い疾病と症状と観察事項など・・・開設後一か月位した頃、何人かの介護福祉士が「勉強会を開いてほしい」と言ってくれ、施設において看護師である私が必要とされていると感じた瞬間でした。
その後は、一週間に一度、課題を決め、夜間の勉強会を開くことにしました。
数年後、彼女たちは立派な介護福祉士として成長し、入所した高齢者の方々をお世話するプロとなりました。
終の棲家として私がいる施設を選んでくれた女性がいます。
いつ、どこで、誰と、どのように老後を過ごすか考えたことありますか?
私は、社会福祉法人に入職してから、200名近い方の出会いと別れを経験しました。一人ひとりの出会いと別れが私を成長させてくれました。その中の約半数が施設内で息を引き取りました。
次回からは、その利用者様の中で記憶に残っている方々のお話をさせていただきます。