リスクマネジメント(事故分析)
リスクマネジメントの考え方
《基本的な考え方》
(1)人は必ず事故を起こす。事故はゼロにはならない。
→個々の職員の努力に依存するだけでは限界
(2)組織で事故防止に取り組む
→リスクマネジメント委員会
①業務手順マニュアルの見直し
②業務手順マニュアルを作成
(3)万一事故が起きても被害は最小限に
→事故発生後の対応次第で被害を最小限に
《福祉サービスの特徴》
①ヒューマンサービスを主として提供されるため、必然的にヒューマンエラーが発生する頻度が高い。
②利用者のほとんどは、介助を必要とする高齢者、障害者であり、利用者の身体能力や判断能力が不十分なケースが多い
⇒利用者サイドのヒューマンエラーは、起こしにくい環境を醸成することは出来ても、それをコントロールすることは極めて困難
⇒必然的に介護者側のエラーを如何に低減させるかが、福祉サービス提供現場における事故を低減できるか否かのポイントとなる
《福祉サービスにおけるリスクコントロールの留意点》
(大原則) ◆ 事故要因分析・対策立案では事故発生までのプロセスに着目して検討を行う ⇒業務プロセスの改善が主眼 |
(福祉サービスの事故の特徴) ◆ 業務プロセスが存在しない(確立しない)状況で発生した事故(主に利用者側のヒュウマンエラー)が多い ⇒個別対策を検討(アセスメントの徹底、危険の気付き向上、ハード対策等) |
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業務プロセスが確立する例 ・服薬ミス |
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業務プロセスが確立しない例 ・利用者同士のけんか |
「事故報告書」作成のポイント
《報告書作成の目的》
①事故の迅速な解決
②事故の再発防止⇒事故・ヒヤリハットそのものを減らすこと
※事故報告書を作成する目的は、責任追及ではなく再発防止対策を行うのが目的
●事故 ⇒ 責任追及 ⇒ 処罰 ⇒ 一件落着? ⇒ 何も解決しない ●事故 ⇒ 事故報告書作成 ⇒ 原因追求 ⇒ 反省 ⇒ 一件落着? ⇒ 何も解決しない |
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事故発生⇒5H+1H(誰が、いつ、どこで、なにを、どのよう起こったのか、なぜ起こったのか)の視点で要因を抽出⇒どうすれば再び起こさないで済むのか、具体策はないのか⇒対策の実践⇒再発防止 |
《事故事象把握のポイント》
①「責任追及型」ではなく、「対策指向型」に徹する ②事情聴取ではなく協力要請の雰囲気を醸成する ③先入観を排除し、発生した事実を追及する ④事実を感情論や「~べき論」などで否定しない ⑤直接関係ないと思われても、当事者の記憶している事情、環境など全てを聞き出す ⑥通常と違った行動、判断(変動要因)などを抽出する ⑦「いつ、どこで、どのように起こったか」に加え、「なぜその自象が起こったのか」「どうすれば再び起こさないで済むのか、具体的な対策は何か」と検討を進めることに重点をおく。 ⑧調査内容は正確に出来るだけ詳しく記録する |
《事故報告書作成時の一般的な注意点》
文書の構成に関する注意点
○主語・述語に矛盾がないか
○ 5W1Hが明確か
○時間軸が一貫しているか
用語などに関する注意点
○「です・ます調」と「だ・である調」の統一
○ 誤字脱字はないか
○数字・数値などの間違いはないか
○ 抽象的な表現を使用していないか
わかり易くする工夫など
○要点を最初に持ってくる
○項目によっては箇条書きで整理
○図表の活用
要因分析のポイント
《分析手法》
RCA(Root-Cause-Analysis)分析
①起こった事象について「なぜそうなったか?・・なぜ?・・なぜ?・・なぜ?」と繰り返し事故発生に至るプロセスを詳しく追跡した上で、事故の根本原因を突き止める。
②根本原因について「人に関すること」「物に関すること」「管理に関すること」「環境に関すること」の4つの視点で要因分析及び防止策の策定を行う。
《イメージ》
視点 | 事故要因 | 再発防止策 | |
職員 |
○経験・知識・技量・身体状況 ○心理状況・縦横の人間関係 |
根本原因3 | 例)未熟な職員が多い |
機器 |
○設備・機械・器具 ○配置・品質・適合性・強度・機能 |
根本原因1 | |
根本原因4 | |||
環境 |
○自然環境・人工環境・労働条件 ○サービス手順・情報伝達 |
根本原因2 | 例)入浴者数の制限 |
例)マニュアルの活用 | |||
管理 |
○組織管理・教育・訓練 ○記録管理・緊急時管理 |
根本原因5 | 例)教育マニュアル修正 |
例)情報収集の徹底 |
《具体例による解説》
事故報告書例(一部抜粋) 記入者氏名 Aチーム介護職 ○○ ○○ ㊞ |
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~省略~ | ~省略~ | |
日時 | 平成 ○年 ○月 ○日( ) 14 時 30分頃 | |
発生場所 |
( )廊下 ( )居室 ( )トイレ ( )食堂 ( )ホール ( ○ )浴室 ( )その他〔 〕 |
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事故発生状況
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入浴後、脱衣室でベンチに腰かけているGさんの服を着せていたときに、下着が無いことに気付き、居室まで取りに行こうとしたところ、2メートルほど移動した時に、後方で、「ゴン!」という音で振り向くと、Gさんが前に転倒していました。抱き起こすと、前額部が切れており、多量の出血を認めたので、周囲に応援を頼み、病院へ救急搬送しました。病院にてCT・頭部X-P等の検査を受け、前額部を12針縫合し、帰苑しました。 | |
事故場発生した原因 | 下着を取りに行った時に目を離したのが原因だと思います。 | |
反省点 |
座位保持が不安定なGさんであることを認識していたにも関わらず、ちょっとなら大丈夫だろうという過信が事故に繋がったのだと思います。 自分の不注意でGさんに怪我をさせてしまいとても申し訳なく思っています。 |
問題の絞り込み(その1)
《事故発生までのプロセス》
脱衣所で利用者が転倒 ⇓ なぜ? 着衣介助中、目を離したから ⇓ なぜ? シャツを忘れたから ⇓ なぜ? 事前にシャツが用意されていなかったから ⇓ なぜ? 下着だけ持ってくるのを「うっかり」忘れたから
なぜ「うっかり」したのか? |
【下着準備に関して判明した事項】
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問題の絞り込み(その2)
《事故発生までのプロセス》
脱衣所で利用者が転倒 ⇓ なぜ? 着衣介助中、目を離したから ⇓ なぜ? シャツを忘れたから ⇓ なぜ? 事前にシャツが用意されていなかったから |
入浴(着衣・脱衣)介助の業務手順に問題は無いか? |
問題の絞り込み(その3)
《事故発生までのプロセス》
脱衣所で利用者が転倒 ⇓ なぜ? 事前にシャツが用意されていなかったから シャツを忘れ取りに行ったから 頼める職員がいなかったから ⇓ なぜ? 脱衣所には職員よりも利用者の数の 方が多かったから ⇓ なぜ? 4時までに終わらせたいとしていたから 利用者よりも職員の勤務時間を優先し考えていたから |
【入浴手順に関して判明した事項】
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