池田弘子さん(仮名:30才)から私に電話があったのは、弘子さんが育児休暇中のことでした。
「えっちゃん、後二ヵ月で育児休暇が終わるのですが、職場復帰したら特別養護老人ホームに戻るのでしょうか?」
「基本的には、育児休暇後は、産前休暇前の部署に戻るのが基本だけど、心配なことがあるの?」と尋ねました。
「子供は保育園に預けることが出来るのですが、以前のように夜勤を行うのは難しいと思います。
家族の協力も得られないので退職を考えなければならないと思います」とのことでした。
弘子さんは、福祉大学を卒業後、社会福祉士取得見込みで社会福祉法人へ入職してきましたが、卒業時の社会福祉士の国家試験は不合格でした。
社会福祉士合格が入職条件ではなかったので、弘子さんの希望もあり、介護職員として働くことになり、三年後の介護福祉士の資格取得が一つ目の目標となりました。
介護技術は不十分でしたが、配属されたチームの先輩職員に支えられながら3年が過ぎ、計画通り介護福祉士を取得しました。
そして、大学卒業から5年目、念願の社会福祉士を取得し、翌年には介護支援専門員の資格も取得したのです。
社会福祉士に合格した時、父親から「やっと大学を卒業できたな」と言われたそうですが、新卒でソーシャルワーカーとして働くより、特別養護老人ホームで働いた介護職員としての経験が自分を成長させてくれたと言います。
私は、弘子さんと話し合いをする中で、彼女の人生の目標を尋ねました。
弘子さんは、「念願の社会福祉士が取得できました。介護を学びながら介護福祉士も取得できました。将来的には、地域包括支援センター等で働きたいと思っています。」と言いました。
私は、彼女の離職は全く考えていませんでした。
どうしたら継続して勤務してもらえるか、どうしたら彼女の知識や技術が生かせるかを考えました。
話し合いを進める中で、弘子さんを夜勤のないデイサービスの生活相談員に移動することにしました。
彼女の目標である地域包括支援センターの社会福祉士として働くためには、在宅サービスを学ばせた方が良いかと考えたからですが、それよりも大切なことがあります。
彼女は、社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員である前に子供の母親だということです。
私にも、既に社会人となった子供が三人いますが、女性が結婚して、子供を産み、子育てしながら仕事をする。
中途半端な気持ちじゃ出来ません。
大変だったからこそ、子を持つ職員を応援してあげようと思ってました。
弘子さんのように出産を機に別の部署に異動する場合もありますが、中には人間関係に耐えられず離職していく場合もあるのではないでしょうか?
介護福祉士や社会福祉士、介護支援専門員等の資格を持っているのなら、別部署での勤務が可能かどうかを、上司に相談してみるのも良いかもしれません。
「人間関係が辛いから辞める」のではなく、働く環境を変えてみるのもチャンスに繋がるのではないかとおもいます。
それでも、辞めたい!朝起きるのが嫌!と思っている方も多いはずです。
人間関係が悪化してしまうそもそもの原因は、職員が働いている介護施設自体に問題がある可能性も高いのです。
「慢性的な人手不足が続く」、「身近に相談できる人がいない」、「給料が低く残業も多い」、「教育体制が整っていない」など、劣悪な環境で働き続けていては、身も心もボロボロになってしまいます。このような場合は、思い切って転職すべきかと思います。
劣悪な環境で働き続けて心がダメになってしまう前に退職するのです。
「すぐ辞めるなんて根性がない」「嫌なことからすぐ逃げ出す」と思う人もいるかもしれませんが、辛い状況を我慢して働き続けることの方が、必ずしもその人のためになるとは限りません。
人材不足の中で新人介護職員を抱え、育成していくことは非常に大変なことです。
しかし、私たちの仕事は「人命をお預かりしている重要な仕事」であることを忘れてはいけません。
人材を確実に育てていくことが、利用者の安全を守ることになり、施設の財産となります。
最後に、新人介護職員を迎え入れる際のポイントを記述しておきます。
(1)施設全体で新人介護職員を育てるという意識を持つこと
介護業務は、介護職員だけで成り立つものではありません。相談員、看護師、栄養士、事務職員などそれぞれの専門性に基づいたケアがなされています。他職種との連携を強化し、チームケアの本領を発揮するためにも、他職種との協力体制が重要な鍵となります。そのためには、会議などを通して、他職種から情報を収集し、新人職員の育成状況などを報告し、相互の意思疎通(コミュニケーション)を図り、指導の協力を求めていきます。
(2)新人介護職員が安心して業務に付けるよう先輩介護職員による見守り体制を整えること
新人介護職員にとって、新しい職場へ第一歩を踏み出すときはかなり不安なものです。誰に相談したらよいのか、誰に質問したらよいのか戸惑うことなく、その場の質問はその場で解決するサポート体制は欠かせません。勤務形態の都合上、指導者が四六時中側にいて指導する訳にもいきません。指導者が不在のときには代行職員が新人職員を見守り、指導を行います。この代行者の指導により、指導者の価値観のみに強く影響されることを防ぐことが出来ます。
(3)新人介護職員のやる気を奪う態度・行動・言動は慎むこと
新人介護職員は、緊張から自分を上手く表現できないことがあります。指導のつもりで質問攻めにすると新人職員はどうしてよいか分からず混乱に陥ってしまいます。感情を露骨に出して新人職員の失敗を責めたり、大勢の職員の前で注意することは、指導のモラルに欠けている行為と言えます。また、指導に一貫性がなく他人に厳しく、決して褒めようとしない、それなのに自分には甘い先輩の態度は最悪です。
(4)定期的に「話し合う場」を設定すること
毎日の日常業務では、ゆっくりと話し合う時間がなかなか取れないのが現状ですが、定期的に目標の達成度を確認する必要があります。自分の能力に適していない(高すぎる・低すぎる)目標は、モチベーションを下げる原因にもなるため、新入職員と指導者の話し合いだけでなく、必要に応じて上司も交えた話し合いの場を設定する必要性があります。
(5)早めにチームの役割業務や委員会活動などの一員として活躍できる場を設けること
新人介護職員は、毎日の介護業務だけでなく、自分に合った役割を担うことで、自分の持ち場を確保でき、思わぬ力を発揮できることがあります。チームの担当業務や行事などの担当を早めに経験してもらうことも、能力開発の重要な鍵となります。新人介護職員の得意分野を見極め、できるだけ早い時期に「その人らしさ」を出して大いに活躍できる場を設けましょう。
女性の多い職場の人間関係は本当に難しいものです。
私も経験したからこそ分かるのですが、10人いれば、嫌な人は一人くらいはいるものです。
辞めるのは簡単ですが、自分が辞めるのは悔しいと思っているあなた。
「苦手だから」「嫌いだから」という理由で相手との関わりを避けるだけでは、人間関係を改善するのは難しいもの。仕事だと割り切って、自分から挨拶をする、業務を終えて戻ってきた職員に「お疲れ様」などと声を掛ける。笑顔やうなずきを意識して相手の目を見て話を聞くなど、相手に歩み寄ることで関係が修復することもありますよ。