高齢者施設の人材不足は、社会全体の問題として捉えられています。
2000年の介護保険制度の開始によって「措置」から「契約」へと移行し、民間企業による介護サービスの提供が全面的に認められるようになり、一気に規模が拡大しました。
この時、高齢者施設では初めて「利益の追求」「業務効率化」「サービス業」などの考え方が業界内に持ち込まれるようになり、介護業界は「人手不足である」という認識と景気の悪化とが相まって、多くの未経験者が介護市場へと流入しました。
そして、その結果として起こったのが、定着率の悪化です。
介護の仕事をよく知らない多くの転職者が安易に職に就き、「仕事がきつい」「給料が安い」といった理由で次々と辞めていくという事態が起こりました。
介護福祉士は、高齢者や障害者などに対して、専門知識に基づいてプロの立場でサービスを提供していく職種です。
社会福祉士及び介護福祉士法は平成62年に成立した法律ですが、この背景には、社会の少子高齢化が進み、介護を必要とする高齢者が増え、核家族の増加によって家庭内だけでは介護を担うことが難しい状況になってきたことが考えられます。
平成元年には、第1回の介護福祉士の試験が行われ、2782人(合格率23.2%)の介護福祉士が誕生しましたが、当時の特別養護老人ホームや養護老人ホームで働く寮母さんと呼ばれる方々は公務員であり、介護福祉士を取得する必要もなかったのかもしれません。
その後、特別養護老人ホームの民間委託が始まり、特別養護老人ホームも民営化が進み、新しい高齢者施設が数多く作られると、実務経験者の受験が増えていったように思います。
同時に、平成元年になると、様々な短期大学が介護福祉科を増設したり、保育科に専攻科を設けたりするなど介護福祉士の養成に取り組む大学や専門学校が増えていきました。
当時は、短期大学や養成校の卒業者は、学内の試験で介護福祉士資格が取得できたので、国家試験を受験する必要がなく、卒業後の就職率は100%だったそうです。(現在は受験が義務づけられています)
私が勤務していた社会福祉法人でも、平成6、7、8年頃に介護福祉士を募集すれば、募集人数の3倍の介護福福祉士の応募がありましたので、平成10年には介護職員の9割が介護福祉士を占めていました。
昨年、実施された介護福祉士の国家試験では、受験申込者数は84,032人、合格者数58,745人、合格率が69.9%です。
2014年度、2015年度には15万人を超えていた受験者数が、2016年度に76,323人まで激減し、その後は8万から9万人を推移している状態です。
介護福祉士の受験者数が減少した理由には、2016年度に行われた受験資格の改定が考えられます。実務経験を積みつつ資格取得を目指す場合、実務者研修を受講しなければならなくなりました。
「実務経験ルート」の志望者減少を避ける対策として、2019年10月に介護福祉士の賃金を底上げする特定処遇改善加算もスタートしましたが、思うように受験志望者を呼び戻せていない状況が数字で明らかとなっています。
それでも、第24回以降の試験結果を振り返ってみると、合格率は60%台に跳ね上がっています。
良い人材に就職してもらうためにはどうしたら良いでしょうか?
介護人材は売り手市場です。
退職しても何社か面接すれば、どこか採用してくれるでしょう。
昔は、採用する側が幾つかの質問をし、合否を決めるのがほとんどでしたが、今は違います。
応募してくる人材が質問し、施設を選ぶようになった来たのです。
私が多くの良い人材を集めるために行ったことは、実習生を積極的に受け入れることでした。
養成校(大学・短大・専門学校)の実習を積極的に受け入れることで、指導にあたる職員も学び直せるチャンスです。
分からないことは認め、一緒に学べることで成長していきます。
次に、実習指導者(知識、技術、人柄の良い人材)を選任し、実習生指導を丁寧に行うことです。
実習指導を丁寧に行うことで、卒業時に就職したいと思ってくれます。
実習指導を片手間に行うと、就職どころか、悪いイメージの施設だと映ってしまいますし、その評判は、養成校に伝わってしまいます。
次に、職員が不安になるのが指導教育体制です。
新入職員指導マニュアル(間接介助マニュアル・直接介助)の策定とチェックリストが必要です。
介護経験があるなしに関わらず、指導マニュアルに沿って指導し、3カ月(試用期間)かけて介護技術を確認していきます。
新入職員でも経験年数が長い人ほど質問が出来なくなるものです。
試用期間を設けて、双方が納得できる雇用契約が出来るように進めていくべきかと思います。
職員大切に育て、離職率を低下させることで、能力の高い職員が集まってくると思います。
次に、入職面接する方に多い質問が、賃金や手当です。
給料は、職員給与規程に準じて支払うと説明することが重要です。
また、扶養手当、住居手当、通勤手当、特殊勤務手当、夜間勤務手当、宿直手当、時間外勤務手当、精勤手当、年末年始出勤手当、期末手当及び勤勉手当も気になりますが、資格手当等については、頑張った職員には報いることが出来るような手当を支給すると安心して勤務して頂けると思います。
ちなみに、当時の資格手当は、介護福祉士25,000円、看護師20,000円、社会福祉士10,000円、介護支援専門員10,000円でした。
有資格者で、当該勤務に就かない場合は、半額の手当が支給されていました。
利用者満足度を向上させ、より良い福祉サービスを提供できるように対応していく為には良い人材の確保は不可欠です。
介護ビジネスの発展に伴い、各事業所は、自らの判断で様々な課題に対処し、多様化するニーズにより迅速かつ的確に応えていかなければなりません。
利用者満足度を高め多事業者間との競争に勝ち残っていくためには、職員が率先して、自らのアイデアや発想を実践していくというスタイルに変わる必要があります。
職員一人ひとりの能力が向上し、組織が活性化・効率化しサービスを向上させるために、職員の意識改革・能力開発を図らなければならないのです。
また、組織にとっても、職員は欠くことのできない貴重な経営資源であり、大切な財産です。大切な財産である職員=「人財」を生かしていくことこそ、福祉の実現や、高品位のサービスの提供に直結するものであり、これからの時代の運営の基盤となるのです。
その為には職員が自分の能力を知り、自ら能力開発に努めること、また、組織は適材適所の人材配置を実現し、職員が能力を最大限に発揮できるように組織力を高めていかなければなりません。